大判例

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大阪高等裁判所 昭和36年(う)277号 判決 1961年10月05日

被告人 大槻泰一郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処し、二年間その執行を猶予する。

被告人から金一〇、〇〇〇円を追徴する。

原審の訴訟費用は被告人の負担とする。

被告人の本件控訴を棄却する。

理由

原判決挙示の証拠によると、被告人は海外引揚者連盟綾部支部の副支部長をしていた関係から、昭和三四年六月二日施行の参議院議員選挙に全国区から立候補した同会顧問小西英雄のために選挙運動をすべきことをその秘書三木貞から依頼されて承諾し、同人から二回にわたつて合計約一一〇枚の同候補の選挙運動用ポスターを手渡され、右支部内の各地区内の適当な場所を選定して右ポスターを掲示する等の運動をしていたところ、判示同年五月一三日ごろ三木貞から、右選挙運動をしたこと及び引続いてこれをすることに対する費用及び報酬の趣旨で供与されるものであることを知りながら、金一〇、〇〇〇円札一枚を収受したことが認められる。記録によると、被告人は右一〇、〇〇〇円札一枚を自ら一、〇〇〇円札一〇枚に替えた上保管中そのうちから右ポスター掲示等のための交通費等に充当費消し、更にこれに従事した一二日間の一日金三五〇円の割合による金額をその間の労務賃に充当されるべきものとしてその合計額を差引いた残金五、八六〇円を所持していると称して、これを警察当局に差出し、それが領置されたこと及び出納責任者小西弘子に対し同旨の内容の精算書を提出し、小西弘子は選挙管理委員会に同旨の届出をしていることが明らかであるが、被告人は小西英雄のためにその宣伝用ポスターを掲示すべき前記綾部支部内における各地区に割当てる枚数及び各地区内の適当とする場所を自ら判断して選定し、選定した場所に右宣伝用ポスターを掲示することに当つたことは上記によつて明らかであり、かように特定候補者のためにその宣伝用ポスターを掲示すべき地区、各地区内に割当てる枚数及び場所を自ら選定し、これにその候補者に有利と判断してその宣伝用ポスターを掲示する行為は、単なる機械的労務とはいえず、選挙運動に該当することは疑いがなく(昭和三年一〇月二九日大審院判例参照)選挙運動に従事する者に対し労務賃と称して報酬の授受されることが許されないことは、公職選挙法第一九七条の二の規定の示すところによつて明らかであるのみならず、同法の精神から考えても当然であつて、右一〇、〇〇〇円が労務賃等合法的選挙費用の前渡し金であるとする論旨は被告人の行為の違法を暗に認めたものとの非難を免れず、被告人の右収受を違法とした原判決は正当であり、記録を精査しても前記各証拠の信用性ないし任意性に疑わしいところはなく、原判決の認定に誤りを見出せない。なお三木貞が右候補者のための出納責任者であつたとすべき根拠は記録上見当らず、この点に関する原判決の認定は所論のとおり誤りであるが、同人が出納責任者であるか否かは右授受の違法性にかかわりはないから、この誤りは判決に影響を及ぼすことがないことは明らかである。論旨はいずれも理由がない。

(その余の判決理由は省略する。なお本件は検察官の量刑不当の主張を認めて破棄)

(裁判官 松村寿伝夫 小川武夫 柳田俊雄)

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